Netflix映画「タイラー・レイク -命の奪還-」は、Netflixの1ヶ月間の視聴最高記録をわずか1週間で塗り替えるという大ヒットを記録しました。
そんなヒットの秘訣は、監督のこだわりの撮影方法で生み出された、これまでにないド迫力のアクションにありました。
今回は、Netflix映画「タイラー・レイク -命の奪還-」のレビューと、キャストの秘密、舞台裏などを中心にご紹介します。
1.「タイラー・レイク -命の奪還-」予告編&あらすじ
いつものようにあらすじと予告編、鑑賞前の印象からお伝えします。
誘拐された麻薬王の息子を救うため、バングラデシュに向かった傭兵(ようへい)。だが、金のために請けた任務が、いつしか過去と向き合う自分との戦いへと変わっていく。
Netflix公式ページより抜粋
本作は、2020年4月24日からNetflixで配信された、Netflixオリジナル制作映画。原題は「Extraction」となっていることから、救出ミッションが主体になっている映画のようですね。
いつもどおりのミッションのはずが、とんでもないことが起こって缶詰状態になる。そこからの必死の脱出を試みる、といったところでしょうか。
クリス・ヘムズワースは、長身でブロンドのイケメン俳優なので、何をしても画(え)になりますしね。
予告編を観ていておおっと思ったのは、アクションシーンです。
- クリスが後ろから蹴った人が、そのまま穴のあいた壁の淵に頭からぶつかって、そのままの勢いで後頭部から地面に倒れるシーン。
- ドリフトターンをする車の外からぐるっとまわって、そのままノーカットで後部座席に視点が移るシーン。
- 建物の2階から落下し、トラックの荷台に1度跳ねながらそのまま地面に落下するシーン。
これはもしかすると、「アトミック・ブロンド」や「ジョン・ウィック」でも使われた、“ワンカットにみえるように巧みに撮影された”アクション映画なのかも知れません。
クリス・ヘムズワースが主役であるならドロドロした人間ドラマはないはずなので、爽快スッキリアクション映画には、間違いないでしょう。
果たして、どうか。さっそく鑑賞してみます。
以下、ネタバレを含みます。
2.「タイラー・レイク -命の奪還-」の感想(ネタバレあり)

いや~、すごかった。
アクションのメリハリが凄くて、タイラーが車に撥ねられるシーンなんか、ハッとしましたね。超リアルでした。
総評からいきましょう。
- ワイヤーなどをできるだけ使わず、ギリギリまでスタントを使うアクション構成。
- 巧みなカメラワークでバレないように数人のスタントをスイッチして、まるで1人の人間が最初から最後までこなしているようにみえる演出。
- ラブロマンスも、メロドラマも一切排除してとにかく暴れまくる体育会系の展開。
なかなかのものです。娯楽映画としては、なかなかハイレベルな映画ですよ、これは。評価に関してはのちほど触れますが、Netflix作品の中でも人気のある作品でなのではないでしょうか。
誘拐されたエヴィ役の男の子が芸達者でしたし、タイラーが息子を思い出すシーンは同じ父親しては目がうるみました。
脇役俳優たちに味のある演技は任せて、主役はとにかく体を張るという今風なアクション映画です。
ではもう少し細かく、心に残ったシーンをみていきます。
2-1.ラストシーン考察
プールの水面に顔を出したエヴィを遠くから見守っていたのは、やはりタイラーでしょうか。
いや、そうであって欲しいと願ってしまうのは、それまでのストーリー展開がスムーズだった証拠です。
アルフレッド・ヒッチコックいわく、「シルエットだけでそのキャラクターを言い当ててしまうのは、監督の策略」なんだとか。まんまとハマってしまったわけですな。
ただ首を打たれて川に落ちたのに死んでないとなると、なかなかジェイソン・ボーンなタフさを持っていることになります。
視聴率によってはシリーズ化される可能性もありますね。
2-2.目に留まった小道具
筆者の大好きなガジェットです。映画の中で、特に目に留まったガジェットをご紹介します。
まずは時計から。タイラーがずっとつけていた時計は、カシオのG-SHOCK、9400レンジマンですね。その中でも、迷彩グリーンのモデルは「緊急消防隊コラボレーションモデル」と呼ばれます。
タフなGショックをさらにタフにしたプロモデルで、どのような過酷な状況でもしっかり時を刻み続けるというカシオ自慢の逸品。
9400 レンジマンはこの他にも、小型ジェット機を製造するホンダジェットとコラボしたモデルや、大震災でも活躍された神戸市消防局と仙台市消防局とのコラボモデルなどで話題にあがったシリーズです。
本作では特にアップで撮影されたとか、セリフの一部に登場したというわけではないのですが、ふと目に留まったので、取り上げてみました。
カシオ公式HPでG-SHOCK 9400 レンジマンをみてみる
次にサングラス。ググったらすぐ出てきたところをみると、他にも気になった人がいたみたいですね。こちらは、Matsuda M3040という商品。
DCブランド「NICOLE(ニコル)」の創設者であり、世界のアイウェアの歴史の中で最も影響力のあった伝説的なデザイナーの一人、松田光弘氏が生んだ、究極のラグジュアリー・アイウェアブランド
GLASS FACTORYより抜粋
「ターミネーター2」でリンダ・ハミルトンが演じたサラ・コナーがかけていたサングラスも、「アイアンマン3」でロバート・ダウニー・jrがかけていたのも同じブランドなのだそうです。
カシオといい、Matsudaといい、車以外の日本製品が映画の小道具に使われるのは嬉しいもんですね。
最後に銃。これは現在の米軍でも使われているBCM CQB-11なのだとか。
銃身が長く、昔のサブマシンガンのような骨太なデザインではなくスマートな、細長い印象を持ったため記憶に残りました。
米軍も今は、新兵募集のためにテレビCMをやる時代ですからね。本当に使用されている銃を映画でも使うのは造作もないことなのかも知れません。
2-3.トレンドになってきた作風
本作のようなアクション映画は、最近ある種のトレンドになってきたなと感じます。この流れはある2つの映画の影響を強く受けているといえます。
それが、「ジョン・ウィック」シリーズと、「アトミック・ブロンド」です。
「ジョン・ウィック」の映画の最大の特徴は、セリフが少なく、アクションシーンが多い点だと筆者は考えています。
カンフー・パンダのセリフを借りるなら、まさに「Enough talk, let’s fight!/話はもういい、戦おう」という世界です。
セリフが少ないので、特に主役に深い演技は求められません。その代わりに、脇役に名俳優を配置して作品全体に重厚さを加えます。
アクションが多いので、観客を満足させることができる新しい娯楽映画のスタイルです。
本作でも、その要素は強く感じました。主役のタイラーは体を張ったアクションで観客を楽しませて、脇役が深い演技をすることでストーリーを盛り上げています。
そのため、エヴィ役をこなした男の子や、同じ傭兵仲間のリーダ的存在であるニックを演じた俳優さん、麻薬王アミール・アシフを演じた俳優さんに自然と目がいくようになっています。
次に「アトミック・ブロンド」に代表されるアクション構成です。
ウィップパン(上下左右に激しくカメラを移動させること)している際に、カメラにうつっていないところで、スタント俳優たちが入れ替わって演技するスタイル。まるでワンカットで撮影しているかのようにみえるアクション構成です。編集もされていますが、観ている私たちはほとんど気づきません。
これはメインキャストはもちろんのこと、スタント俳優たちの安全を守るという点でも今映画界で非常に注目が集まっている技法です。
このことに関しては、アメリカで現役のスタント俳優がYouTubeのRuusticチャンネルで詳しく説明してくれていますので、興味があれば観てみてください。
本作のアクションシーンも独特のカメラワークで撮影していましたね。
予告編でも気になっていた、車の急ターンから車後部座席までのロングショット、それからアパートの廊下での長いアクションシーンも視点が切り替わって本当にその場で一緒に走っているかのような臨場感がありました。
特に大きな事故があったような報道もありませんでしたので、安全に撮影できで本当に良かったです。安心して映画を楽しめます。
Great performance, great job.Thank you, guys!
3.「タイラー・レイク -命の奪還-」キャスト&スタッフ
脇役に演技派俳優を置いてガッチリサイドを固める戦法。もちろんクリス・ヘムズワースが演技が下手という意味ではないんですよ?
むしろ主役をより一層引き立たせる配役で、観ていて全然飽きさせない効果があります。ということとで、気になった制作スタッフとキャストをみていきます。
3-1.監督
本作は、サム・ハーグレーヴの監督デビュー作だったんですね。事前にまったくチェックしていなかったので気づきませんでした。
Embed from Getty Images映画のなかで、タイラーの傭兵仲間に「G」と呼ばれていた人がいたでしょ?ヒゲを蓄えたスナイパー。あの人が、サム・ハーグレーヴです。
自身もスタント俳優の経験をもつ、アクション監督として活躍されてきたかたです。
この映画は、「ジョン・ウィック」と「アトミック・ブロンド」の香りがすると前述しましたが、それもそのはず。その2作品のアクション監督を担当したのが、サム・ハーグレーヴです。
本作では、アクション監督としての経歴を活かしてスタント目線での撮影をしていたんですね。
後日談では、体を車のボンネットにくくりつけて撮影するという、身体能力の高いスタント俳優ならではの離れ業を取り入れていたもよう。やっぱ考えることが違うな。
「この映画はアクションシーンの限界を押し上げたいと思っているんだ」話していたように、この映画は文句なしの異次元レベルになっていると思います。
3-2.脚本
脚本を担当したのは、「アベンジャーズ/エンド・ゲーム」で一躍ときの人となったジョー・ルッソ。本作では、プロデュースも務めています。
Embed from Getty Images本作の原作は、ジョー・ルッソ、アンデ・パークスのグラフィックノベル「Ciudad」をもとにしていますね。
原作では女の子が主役であることろを、男の子に変更するなど多少手を加えていますが、グラフィックノベルがもとになっている点は納得です。
アメリカはグラフィックノベルの映画化が非常にうまいですよね。ストーリー展開がスムーズで、あまり重い感じがありません。アクションに重点を置く本作にはぴったりの題材だったんだと思います。
3-4.キャスト
主役のタイラー・レイクを演じたのは、クリス・ヘムズワース。
Embed from Getty Images1983年オーストラリア、メルボルンの出身です。クリスのアクセントはオーストラリア訛りです。
マーベル作品の「マイティー・ソー」で一気にスターの仲間入りを果たしましたが、ハリウッドデビュー作は、映画「スター・トレック(2009)」。冒頭でクルーを逃すため、最後まで船に残った若き日のカーク船長のお父さんを演じました。
「マイティー・ソー」ではいわゆる王子を演じてきたクリスですが、今回は幼子を亡くした父親であり、さまざまな戦場を駆け抜けてきたであろうプロの傭兵の役。
これまでのプリンス路線ではない、少しワイルドな感じが新鮮でした。
オヴィ役を演じたのは、ルドラクシャ・ジェイスワル。インド、ムンバイの俳優です。

実年齢より若い役を演じることが一般的です。映画「トランスフォーマー」のシャイア・ラブーフも18歳を演じましたが、当時すでに24歳ぐらいでした。
ルドラクシャは2003年生まれなので、ほぼ役柄の年齢そのままだったようですね。
映画出演当時も今もそうですが、ルドラクシャはインターナショナルスクールに通う、普通の高校生。このような大作映画に出たあとでも自身の生活リズムは壊しておらず、しっかりと俳優業と学業を両立させています。
子役に抜擢されると人生変わっちゃう人がほとんどですもんね。そしてその後、ほとんどの人が表舞台から消えます。
ルドラクシャには、そうなってほしくないものです。
傭兵仲間のニックを演じたのは、ゴルシフテ・ファラハニ。
Embed from Getty Images1983年生まれ、イラン・イスラム共和国出身の俳優。6歳から俳優キャリアをスタートさせているかたです。
地元イランでの作品に数多く出演していますが、ハリウッドにもちょいちょい出てます。「パイレーツ・オブ・カリビアン -最後の海賊-」では、魔女役で出ていました。スキンヘッドでも美しかったですね。
本作のメインキャストのなかでは紅一点でしたが、ヒロインという位置付けではなく、あくまでタイラーの良き理解者といった役どころ。
沈着冷静ながら「60秒で送金しなかれば少年の遺体が川に浮くぶことになる」とクライアントに脅しをかける冷酷さも持ち合わせており、タイラーが橋の上で撃たれた時には自らライフルを手に取ってスナイパーを撃ち殺すなど、激情ぶりも持ち合わせた奥深いキャラでした。
まさにクールビューティー。ファンになったかたも多いのではないでしょうか。
オヴィの父の手下、サジュを演じたのはランディープ・フーダー。
Embed from Getty Imagesインドのロータク出身ですが、オーストラリアのメルボルン大学を卒業していることもあって、少し西洋の風貌もある俳優さん。1976年生まれなので現在45歳で、今作がハリウッドデビューになりました。
そして今回演じたサジュのすごいこと、すごいこと。元特殊部隊のスキルを活かし、オヴィの救出にひとりで敵陣に潜入してきた猛者。タイラーの行手を阻む1人として、激しいアクションシーンもこなしていましたよね。
2階から落ちても、車に撥ねられても起き上がってくる様は、まさにブラック・スーパーマン。
ラストシーンの橋の上で、撃たれても足を引きずりながら敵と交戦する姿は、家族の命を必死に守ろうとする父親の姿でもあり、観客の涙を誘う名シーンでした。
元傭兵仲間のギャスパーを演じたのは、名脇役デヴィッド・ハーバー。
Embed from Getty Images1976年生まれ、ニューヨークの出身です。
「ストレンジャー・シングス」の保安官役が有名のようですが、他にも「ヘルボーイ」(2019)、「スーサイド・スクワッド」(2016)、「イコライザー」(2014)など、ドラマにも映画にも多数出演しています。
本作ではタイラーとの格闘シーンもありましたね。タイラー役のクリスは身長が180mで、ギャスパーを演じたデヴィッドは190cmもありますので、短いシーンながら見応えがありました。
筆者も「この人が出てくるとなんかありそう」と思ってしまったんですが、まさにその通りの展開になりましたよね。主役ではないこういった役をこなせる俳優が、映画では非常に重要です。
バングラデシュ、ダッカの麻薬王を演じたのは、プリヤンシュ・パヌリ。インド、ニューデリー出身の俳優さんです。

本作では終始、現地語(バングラデシュが舞台なので、ベンガル語だとは思うのですが、分かりません。すいません。)での演技でした。
お金を持ち逃げした少年を、ビルの屋上から落とす様を見ても平然とジュースを飲む冷血漢でありながら、自ら指を切り落としてきたファラドをもっと賢く立ち回れと諭す一面も持つ役を演じました。
ただの冷酷な麻薬王では済まさないところが、この俳優さんの役作りのいいとこだと思います。
私が今回特に注目した俳優は、スラム街の少年、ファラドを演じたスラージ・リカメ。
Streets of Mumbai make you realize you are yet nowhere,so buckle up and run pic.twitter.com/hsuEUGhbot
— Suraj Rikame (@Suraj35471244) April 30, 2019
現在19歳ということですので、映画当初は18歳ぐらい。キャストのなかでは最年少だったということになります。
オヴィが金持ちのボンボンだとするなら、こちらはスラム街の野心家。とっさの起点と、指を切り落とすことも辞さない野心に満ちた演技は、相当なものです。
私が印象的だったのは、目の演技ですね。
ギャングのボスに銃を与えてもらえたときの優越感、タイラーを奇襲したときの情熱感、そしてラストシーンでタイラーの首に銃弾を命中させたときの高揚感と若干の後悔。
ティーンエイジャーとは思えない落ち着いた演技は、抜群の安定感があり、間違いなくこの映画で脚光を浴びた俳優だと思います。
今後の活躍に期待大です。
4.「タイラー・レイク -命の奪還-」のサントラ
舞台がバングラデシュということもあって、エスニックな楽器や音源をふんだんに取り入れています。
5.「タイラー・レイク -命の奪還-」の評価
筆者の評価と、本作の世間の評価をお伝えします。
筆者の評価は次のとおりです。
Netflix映画「タイラー・レイク -命の奪還-」満足度:70%
舞台背景やキャラクター設定など、細かい部分に課題が残りますが、単純にスカッとするアクション娯楽作品としては上位の出来栄え。
▶︎少年が銃を握る姿をみると、胸が苦しくなる人。
▶︎ウィップパンで画面酔いをしてしまう人。
▶︎ハイレベルなアクションシーンが好きな人。
▶︎クリス・ヘムズワースの新境地を観たい人。
次に国内外の評価を見ていきます。

RottenT
67%

IMDb
67%

metacritic
56%

Filmarks
76%
Metacriticの加重評価率が低い理由は、次のようなレビューがあったためです。
- バングラデシュを戦争で荒廃したような街に表現せず、架空の街の設定にして欲しかった。
- 軍人とマフィアが結託するような国ではない。
- 俳優の訛りが酷く、バングラ語が正しくない。
その国のことを知っているからこその批評ですね。私たち日本人が、日系アメリカ人俳優の日本語に違和感を覚えるのと同じことですので、一理あります。
6.「タイラー・レイク -命の奪還-」続編制作決定
結果的に大成功となった本作について、このような情報もありました。
Netflixにより全世界独占配信され、1週間で9000万以上の視聴世帯数を記録。Netflixにおける1か月の視聴世帯数史上最高記録を、わずか1週間で塗り替えた。
wikipediaより抜粋
凄いですね。ということは、同様に1週間で視聴された世帯数記録において、過去最高と言われた2作品:
- サンドラ・ブロック主演『バード・ボックス』(2018)
- ライアン・レイノルズ主演『6アンダーグラウンド』(2019)
これを超えたということになります。
ということであれば、続編制作は決まったも同然。場合によってはシリーズ化される可能性も出てくるなと思っていたら、Netflixのイベント「TUDUM」でアナウンスがありました。
そう、タイラーは生きていると!
続編、すごく楽しみですね。監督やキャストも気になりますが、それはまた別に記事で考察したいと思います。
それでは、また。
See you soon!